栃木県のスーパーなどで手軽に手に入る「モロ」は栃木県民には欠かせない食材のひとつ。しかし、その正体を知る人は少ないのではないでしょうか。
そんなモロの正体とは一体なんなのか?サメということは知っているけどどんなサメなのか?危険な魚なのか?サメというと臭いイメージがあるがモロは臭くないのか?
そんな疑問に、魚のバイヤーとして10年のキャリアを持ち、合格率10%の超難関珍資格「日本さかな検定」1級を所持する私(マツイ)がお答えします。(このブログは2名で運営しています)
栃木県民が愛するモロの正体は「モウカザメ」
結論から先に述べてしまうと、栃木県で販売されているモロの正体は「モウカザメ」というサメの仲間の肉です。
しかしややこしいことに、モウカという名前はこの魚の主産地である宮城県気仙沼周辺の地方名であり、生物学的な名前(標準和名)は「ネズミザメ」といいます。つまりモロ=モウカ=ネズミザメです。
ちなみに魚屋の流通上では「モウカ」がもっとも一般的な名称です。
モロ(モウカ、ネズミザメ)ってどんな魚?
では、栃木県で愛されるモロの正体、モウカ(ネズミザメ)とは一体どんな魚なのでしょうか?まずはネズミザメの生き物としての特徴を紹介します。
サメと言うと危険なイメージがつきものですが、ネズミザメは比較的おとなしいサメで人間を襲うことはありません。基本的に危険性は無いといって良いでしょう。
ネズミザメは栃木県のスーパーでモロとして販売されているような切り身のほか、かまぼこやはんぺんなど練製品の原料に利用されることもあります。
英語の名前はSalmon sharkといい、その名の通りサケ類を特に好むとされています。
ネズミザメは名前の通りネズミザメ科ネズミザメ属に属します。ずんぐりした体形でおよそ2メートル前後の個体が多いようです。
ネズミザメ科の魚は世界の暖かい海の沿岸から沖合いに生息し、世界では5周知られており日本ではそのうち3種が確認されています。
※以降、本記事では食材を指す場合には「モロ(モウカザメ)」と表します。
モウカザメの名前の由来、語源
モウカの語源は真鮫(まふか:ふか=サメ)が訛った言葉という説があります。
魚の名前には「マアジ」や「マサバ」のように、その仲間のうち代表的な種類のものに「真の」という意味を込めて真●●という名前がつけられることがあります。
三陸地方ではモウカザメがまとまって獲れるサメのため、マフカザメと名付けられ、それが訛ってモウカザメになったということです。(あくまでも一説です)
ちなみに栃木県民である本ブログの共同執筆者は、これとは別の語源である栃木県の地名である真岡(もおか)に由来するという説を挙げています。
モロの漁獲方法
モロ(モウカザメ)は長く延ばした幹糸(みきいと)に、釣り針のついた枝糸(えだいと)を何百本も垂らした釣り漁法の一種「延縄漁(はえなわりょう)」で漁獲されます。
モロの旬
モロ(モウカザメ)の旬の時期は4月〜8月ごろとされますが、私の印象からすると年間を通じてあまり大きく味は変わらないようなイメージがあります。
なぜ栃木県でモロ(モウカザメ)が販売されるようになった?
ではなぜ栃木県でモロが多く流通するようになったかというと、実は詳しいことはよく分かっていません。
有力な説として挙げられるのは、モロをはじめとしたサメ類は他の魚に比べて鮮度劣化しにくいため、海のない栃木県に流通させやすかったということです。
コールドチェーンの発達した現代では、全国どこでも生で食べられる非常に新鮮な魚が手に入るようになりました。
しかしほんの数十年前までは、栃木県など海のない県では新鮮な魚を得ることは非常に困難だったのです。そこで珍重されていたのがモロでした。
サメやエイなどが属する軟骨魚類という大きなグループの魚類は、海中での浸透圧調整のために体内に多量の尿素を蓄積しています。
尿素はサメの死後に分解されアンモニアとなります。これがモロをはじめとしたサメの仲間の肉が臭いといわれる原因です。
一方で、尿素は古くなった魚で発生する食中毒の原因であるヒスタミンという物質の生成を抑制する効果があります。
ヒスタミンはサバやイワシ、マグロなど赤身魚に多く含まれ、鮮度が低下すると大量に生じます。ヒスタミン中毒になると頭痛、じんましん、吐き気などの症状がおきます。
こうした特徴を持っているからこそ、モロは栃木県という海のない県で愛されるようになったのだと考えられています。
実は筆者は一度ヒスタミン中毒になったことがあり、全身にじんましんが発生し、呼吸が苦しくなるなどの症状が出ました。正直しんどかったです。
モロの美味しい食べ方
栃木県ではモロは煮付けで食べられることが多いらしいですが、筆者おすすめの食べ方はフライです。
油で揚げると気になる臭みもなくなり(そもそも最近一般的に販売されているサメ肉はほとんど臭くないですが)、非常に食べやすくなります。
さらにタルタルソースと一緒にバンズで挟んでモロバーガーにするのが非常におすすめ。
実際に、都内では気仙沼のモウカを使ってキッチンカーで「サメバーガー」として販売している方もいらっしゃいます。一度食べましたが大変美味しかったです。
栃木とモロの美味しい関係。生き物は面白い
ということで長くなりましたがモロと栃木の関係を知って少しでもみなさんの世界が広がったなら嬉しく思います。
一つの生き物にはたくさんの物語があります。生き物に注目すれば一生を面白く暮らせることでしょう。
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