鯖缶ブームから早5年。2023年の鯖缶ショック
みなさん、鯖缶(さばの水煮や味噌煮)はお好きですか?
私は一時期鯖缶を販売したりレビューしたりで商売をしていたほど愛しています。おそらくこれまでに食べたサバ缶は50種類を超えます。
サバ缶は2017年ごろのブームから急激に消費量が増え、なんと2018年にはツナ缶の消費量を上回ったそうです。
様々な栄養効果が話題になり、一時期は店頭にまったく鯖缶が並ばないこともありました。そしてブームで終わることなく、消費量は高くなったままです。
安くて美味しくて栄養価が高い。そんな庶民の味方の鯖缶が2023年のいま「再び」スーパーから消えようとしています。
鯖缶が無くなった原因は何か?回復することはあるのか?水産バイヤー歴10年の筆者がお伝えします。
サバが獲れない。原料不足が原因
言うまでもなく鯖缶の原料となるのは魚のサバです。2023年の鯖缶不足は単純に鯖缶向けのサバの不漁によって発生しています。
サバは世界中の海に生息していますが、鯖缶に利用されるのは主に中国産または国産のマサバ・ゴマサバです。
一部高級な缶詰にはノルウェーやアイスランド産のサバ(タイセイヨウサバ)を使うことがあります。
なぜサバが獲れていない?
鯖缶の原料となるサバ(マサバ、ゴマサバ)が獲れていない原因は急激な漁獲量減少です。
2021年は約36万トン獲れていたサバが2022年は約23万トンと大幅に減少しています。
ちなみに鯖缶ブーム時の2018年には約51万トンで、年々サバの漁獲量は減少しています。
ではなぜサバが獲れなくなっているのか?原因は複数考えられます。
日本の海で起きている魚種交代
日本近海の漁場では、漁獲量の多い魚種が数十年周期で入れ替わる現象が発生します。
1980年代には豊漁だったマイワシが2000年ごろにはほとんど獲れなくなってしまうことが実際に起きています。
一方で、同じく日本近海で獲れるカタクチイワシの漁獲量が増加していることが報告されています。
マイワシとカタクチイワシやサンマ、スルメイカなど豊漁になる魚種が入れ替わることを「魚種交代」と呼び水産業においては非常に重要な現象です。
魚種交代が起こる原因は海洋環境の大規模な変化(レジームシフト)によるものとされていますが、まだはっきりしたことはわかりません。
1960年代にはスルメイカ、1970年代にはサバ、1980年代にはマイワシ、1990年代にはサンマが豊漁だったとされています。
2023年の鯖缶ショックに限らず、これまで獲れていた魚が獲れなくなると大騒ぎするのは今に始まったことではありません。
たとえば15年くらい前の「イワシが高級魚になった」とか最近の「サンマが高値で買えなくなった」というニュースを覚えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
でも、ほんとに魚種交代なのか??
とはいうものの、ここ数十年単位でみると日本は全体の漁獲量がとてつもなく減少しているので、これが単に魚種交代だけが原因とはいえないような気がしています。
サバだけが獲れていないのではなく、日本近海ではスルメイカもカツオも非常に資源が少ない状態です。
「鯖缶が品切れ」というニュースが消費者にとってインパクトがあるからニュースになっているだけといえます。
そして資源が減少している理由の一つには「獲りすぎ」があるのかもしれません。
アフリカへ輸出される日本の小サバ
日本では食用にされない小さいサバはエジプトやナイジェリア、ガーナなどに食用目的で輸出されています。
そして脂ののった大型のノルウェー産サバを輸入する…こんなことが起きています。
小さいサバは獲らずに海に残しておけば、数年後には大きくて脂の乗ったサバが獲れる可能性があるのですが、事実上そういった制限がない状態です。
こうした小さいサバを安く輸出してしまうから資源が減り、高く売れる鯖缶向けの大きな魚が獲れないなんてことになっている可能性が考えられます。
鯖缶ショックは収まるの?
鯖缶ショックは2018年のブーム時と同様に数ヶ月は続くことと思われます。
そもそもこのまま漁獲量が増えなければ、鯖缶は値上げとともに市場から消えていく可能性もあります。
テクノロジーが発達した現代でも、1日後はおろか1ヶ月後の漁獲量はまったく読むことができません。
一方でマイワシは漁獲量が増加傾向です。マイワシを使った鰯缶がもしかしたら今後スーパーに並ぶことが増えてくるかもしれません。
そしてこれを機に、日本の水産業に少しでも注目していただけたら幸いです。
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